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Good Morning Yukon Vol.2 : Pesent -Second half

前回の旅から2年後の2005年8月、写真家・宮澤聡は再びカナダのバンクーバーに降り立った。19日間をかけて壮大なYukon Riverを下るために。

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 何時ぐらいだろうか?まだ目の前には夜の闇が広がっていた。テントを打つ雨音で目が覚めた。なんだ! また降ってきたか! まだ、4時じゃないか! やだな〜! とにかく雨が止んでくれないかな〜! 朝、雨に濡れたテントを畳むのが嫌だ! とにかくまた寝ることにした。辺りが明るくなって目が覚めたときに雨が上がっていると期待しながら......。


 ぼくは、よく夢を見る。それもいつも悪夢だ。いつもあまり鮮明には覚えてないのだが、たまに覚えている夢はいつも悪夢だったからだ。夢の中で叫んでいるらしい。それも大声で。だから、ぼくの寝言をはじめて聴く人は大概ビックリするらしい。寝言も夢も覚えていないので自分で叫んでいることさえ信じがたいが、多くの人が聞いているので事実のようだ。ただこの時だけははっきりと夢を覚えている。それは戦慄の恐怖、大自然との戦いだった。


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 これはフィクションであり登場人物すべて架空のものである。

 目の前には霧の立ちこめた深い深い森が広がっていた。ぼくは、そこに入りたくないと思いながらも吸い込まれるように足を踏み入れた。森の中は、ふかふかのベッドの上を歩いているようで、そう、そこはここと同じツンドラの森である。苔とまっすぐに伸びた先が見えないほど背の高い針葉樹。森は奥深く進めば進むほど光が届きにくく、黒い闇が迫ってきそうで背中をゾクゾクさせた。後ろを振り返ってもぼくが歩いてきた道はすでにわからない。もう前に進むしかない。

 昼間だと言うのにまるで日没後の暗さだ。そんな中を、恐怖を抱えながら森の奥深くへと進む。しばらくすると、どこからか変な音が聞こえる。なんの音だ? 何やら奥からブゥ〜ン、ブゥ〜ンとなにか聞いたことのある音だ。なんだ? 何の音だ? 耳を澄まして聞くと、こ、これはエンジンの音だ! なんで道もないこんな森の中からエンジン音がするんだ? ぼくはものすごく怖かったがその音のする方向へ歩いた。一歩また一歩とすり足で様子を伺いながら進むと、目の前に大きな薮が広がっていて音は、その中から聞こえていた。

 そして、藪の中を恐る恐る覗いてみるとそこには見たこともない鳥がいた。見た目は雷鳥のようだが、かなり大きい。丸くて70〜80cmはあろうかと言う巨体だ。そいつが羽を小刻みに動かしている。その羽音が、なぜかエンジン音のように聞こえる。小型トラクターがアクセルを踏んで噴かしているような音だ。

 なんだ? あの鳥は? ちょっと怖え〜な! 恐怖を感じたぼくは、そお〜っと立ち去ろうかとした瞬間、何か巨大なものがぼくの後ろをものすごいスピードで通り過ぎた。そしてエンジン音も止まった。

 ぼくは、後ろを振り返りまた藪の中を覗き込んだ。すると、そこには、ものすごい巨体の塊があの鳥を食らっていた。そして一気に鳥を飲み込んだ!! そして飲み込んだ瞬間そいつの顔が見えた。そいつは、大きなグリズリーだった。うあうあうあう、やばやばいやばいやばい! 早く逃げなきゃ!! 逃げようとした瞬間足が木の幹に引っかかって転んだ!そして、奴と目が会ってしまった。ものすごい形相でこっちを見ている。

 やべやべやべ、、、、、、!
 うあうあうあうあうあうあうあうあうあう!

 逃げろ! ぼくは、一目散に走り出した。とにかく走った。死ぬまで走った。後ろを振り返る余裕などなかった。とにかく走った。目の前の木々の間から光が差してきた。やったー! 出口が近いぞ! 少し安心したぼくは、後ろを振り返ってみた。ひぇ〜、マジか! 奴がものすごい勢いで追いかけて来る。

 ヤバいヤバい!
 おれ! もっと走れ! もっと早く走れ!

 出口までもう少しだ! 走れ〜〜〜と自分に叫んだ!でも奴の方が早かった。どんどん距離が縮んでくる。ヤバいヤバいヤバい! 無我夢中で走った。そして、あっ! 出口だ! もう少しだ! しかし足音がどんどん近づいて来る! 5m、4m、3m、2m、1m、そして! ギッリギリで光の中へジャンプした!


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 そこでぼくは飛び起きた! うあ〜、なんだあの夢は? ぼくは汗びっしょりになっていた。そしてすでに朝だった。しかし相変わらず雨音がテントを叩いていた。テントから顔を出すとSeijiがタープの下でコーヒーを飲んでいた。ぼくもコーヒーを飲みにテントを出た。おはよう! 雨だね〜!

 ちょっと出発遅らそうか? このままびちょびちょでゴールしたくないし。
とseijiが言う。もちろん賛成した。そして、seijiが、きみ、昨日また叫んでたね! 

 マジで?
はっきりと言ってたよ! 走れ〜って! やっぱりな! あの時か!

 夢を覚えていて、指摘されるとちょっと恥ずかしい。そのあと、2、3時間して雨があがった。やった〜! 晴れてきた〜! そしてぼくたちは、テントやら寝袋やらを干しはじめた。ダラダラと最後のパッキングをはじめた時、空が突然オレンジ色に輝きはじめた。ただ夕焼けの色でもない、何とも表現できない色だ。ぼくたちは、もっと広いところで見るために川岸に出た。そうしたら、ぼくたちの目の前に大きな虹が現れた。それもダブルレインボーだ!

 うあ〜、すげ〜〜! こんなのはじめて見た! なんとも言えない空の色の中にとっても美しい虹が鎮座している。 Yukonがぼくたちに最後の大自然のスペクタクルなshowをプレゼントしてくれた。いよいよゴールだよ! と祝ってくれているようだった。感動で涙が出そうだった。


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 そして、そのスペクタクルshowも、ものの5分で終焉を迎えた。その5分間は異次元の世界にトリップしたようだった。もしかしたら、ぼくはまだ夢の続きを見ているのではないかという錯覚さえおぼえた。そのぐらい不思議な空だった。たぶんこの光景は、生涯忘れることはないだろう。誰でも人生にはいくつか忘れられない場面に出くわすことがあると思うが、これはぼくのその一つになった。

 ぼくたちは、最後のパッキングを終えて、
 さあ〜、出ますか! 最後の旅に!
 20km先にあるゴールDoson cityを目指して。






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