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Good Morning Yukon Vol.2 : Monster

 

前回の旅から2年後の2005年8月、写真家・宮澤聡は再びカナダのバンクーバーに降り立った。19日間をかけて壮大なYukon Riverを下るために。

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 日が暮れようとしているのにまだキャンプ地が見つからない。僕は焦っていた。今回は夜が来る!

 前回は白夜だったのでいくらでも川の上で残業はできた。外灯があるわけでもなく、夜が来ればたちまちヘッドライトが照らすせいぜい5mぐらいがわかる程度だろう! どこに岩があるのか、どこが浅くなっているのか、さっぱりわからなくなってしまう。真っ暗になってしまっては、川を下ることができない。真っ暗の中を下るのは相当危険である。

 そして僕たちは、川が右カーブをしているところにある川岸の浅い砂と砂利が広がっている平地を見つけた。Seijiがここにしようと上陸した。僕も後を追って上陸した。

 そこは地図上で記載されているキャンプ地ではなかったが、もう時間がない僕たちは、ここをキャンプ地とするしかなかった。早速カヤックを降りて場所のチェックに入った。僕たちは、キャンプ地を見つけて降りると必ずチェックすることがある。動物の足跡がないか? 特に熊の足跡や引っ?き傷がないか? もしそれらがあれば、やはり危険なのでそのキャンプ地はスキップする。


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 僕たちは、今までは地図上に記載されている、キャンプができる場所にテントを張っていた。動物も人間の痕跡があるところには、なかなか近づかない。だから、地図上にあるキャンプ地は、それなりに安心ができた。が、もちろん100%安心ではない。動物の好きな甘い香りや食べ物の臭いなどを発していれば動物は寄ってくる。特に熊は甘い香りが大好きだ。

 そしてチェックしてみると、あるある! 結構な数の動物の足跡! 大きいものから小さいものまで。ここは、動物たちの水飲み場のようだった。しかし熊の足跡は発見できなかった! でも、やばいよ〜! ここは! 絶対やばいよ〜! 僕は心の中で叫んでいた! 熊が出てきたらどうするんだ〜! 武器なんか持ってね〜ぞ! ここは危険だよ〜!

 とにかくもうちょっと広い範囲でチェックをしてみようとSeijiが言うので、二人で岸辺から後ろの茂みまでチェックしたが熊の足跡は、発見できなかった! と言うか暗くて念入りにチェックするのは難しかった。これ熊の足跡じゃね〜? ちょっと小さいけどそうじゃね〜の? と僕が尋ねると、するとSeijiが、いや! これはムースかなんかだよ! いやいや、本当か? おれまだ死にたくね〜ぞ! と心で思いつつ、そんなこと言っても、もう身動きがとれない時間帯になってしまった。日は完全に沈み、夜がそこまで来ている。もうここで今夜を乗り切るしか方法はなさそうだ。とにかくテントと炊事場の距離を離そう! そうすれば大丈夫だよ! ってSeijiは言うけど、俺の中では不安でいっぱいだ!

 前回のTeslin川のときに岸の反対側で水を飲んでいる熊の親子を見たけど、でかかったぞ!
ここYukonには、グリズリーがたくさんいる。たぶん出会ったら死ぬ! そんなことを考えながら、テントを設営していた。


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 そして炊事場をテントから10mぐらい離して作り、とにかく火だ! 火! 火を焚こう! ごはんを食べながらもカサカサと茂みが音をすれば、フッ! と振り返ったり、ごはん食べてるのも気がきじゃない!

 やっぱりあのときガイドがいたツアーの連中の横にテントを張ればよかったんだ! と後悔をした。多少うるさくたってこの恐怖に比べれば屁みたいなもんだ! もしかしたら、ムース肉にもありつけたかもしれないし、少なくてもここよりかは、身の危険を感じずに過ごすことができたに違いない! と不安感が時間がたつにつれて倍増していく。風がひゅ〜と吹き始め、茂みがカサカサと音を奏で、完全に夜が訪れ、辺りは闇夜に包まれた。

 たき火の火だけが僕の救いだった。ただ、こんな状況でもやはり1日の終わりのお疲れ乾杯ビールを飲んでいる僕たちは、神経が図太いのか繊細なのかよくわからない。Seijiはわからないが、僕は、小心者と自負しているので、アルコールで恐怖をごまかそうとしていた。ごはんを食べたあと、すぐさま食料をカヤックに片付け、とにかく臭いを消す。臭いがしそうなものはすべてカヤックにしまった。Yukonはまだ8月だが、夜はそれなりに寒い。そしていつものように、スコッチを飲み始めた。体の中にアルコールをもっと注入して恐怖と寒さをもっともっと吹き飛ばす。

 僕は、思った。そうだ! 朝まで火を焚こう! そうすれば、熊は寄ってこないんじゃないか! と。しかし、そうしたら僕は、朝まで起きていなければならず、そんなことをしたら次の日の行程が辛くなる。それに今日1日でかなり疲れていた僕は、朝まで起きている自信がない。だとしたら、なるべく遅くまで起きて火を絶やすまいと決めた。


 それには、薪をもっと集めないといけないと思ったが、ただここには森がなく、茂みだけで真っ暗な茂みの奥に行くのも怖かった僕は、あまり薪を集めることができなかった。仕方がない! とにかく、少しづつ燃やそう! するとSeijiは、おれもう寝るけど、お前どうする? え〜!マジか! もう寝るのか!? おれひとりで起きてるのか? するとSeijiは、火の後始末よろしく! といいながら、テントに消えていった。マジか! 1人で火の番をすることになった。恐え〜な〜! 火を焚いているけど、一人じゃ心細いし、風の音と茂みのざわめきが恐怖を引き立てる。こうなったら、酒を飲んで一気に寝るしかないと思い、薪を全部を突っ込んでなんとか朝まで持つようにと祈りながらテントに入った!


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 コップのスコッチを飲み干し、薪を全部投入し、テントに入った。テントに入って30分、1時間たってもなかなか寝付けない。やはり、気が張っている。いつ襲われてもいいように頭の中でシュミレーションしている。ガオー! と襲ってきたとしてここに蹴りをくらわして、その隙に逃げるとか、あーでもないこーでもないと考えるとなかなか寝るのが難しくなってきた。

 ダラダラしながらも、やはり僕は疲れていたのかアルコールなのかいつの間にか眠りに入っていた。そして、どのくらいたっただろうか? なにかの気配で目が覚めた。外が明るかった。時計をみると朝にはまだ早い時間! なんでだ?そうか! 月明りか! まるで外灯があるかのように明るかった! ただ、テントの外に何かがいる! なにかが動く気配がする! なんだ! 一体なんだ? やばい! どうする? 自問自答する。確かめようにもテントを開けて確認することなんか怖くてできやしない。顔を出して熊だったら、どうするんだ?
なにもできやしない! 息を潜めて物音を立てずにこの場を乗り切るしかない! 

 やべー! なんかこっちに来る! おいおいおい! 来る来る! そして、おれのテントのすぐ横に来たぞ! 月明りで陰が見えた! なんだ? なんかでかいぞ! 熊か? それともムースかなにか? 陰がぼやけてよくわからない! やべ〜! マジやばい! おい! 鼻息がフウー! と言った! どうする? どうすればいい?

 頭の中でシュミレーションしていたことなど全然役に立たないし、頭は、ほとんどパニック! とにかく、気配を消すようにジーッとして微動だにしないように務めた。そしてそのなぞの怪物は、もう一回鼻息をフウー! としておれのテントの前を去っていった。

僕は、恐怖のあまり怪物が去った直後、体がブルって震えた。そのまま寝ることができなかった僕は、こんなに朝が待ちどうしく、朝を待つのがこんなに怖いと思ったことがなかった。

そして朝日が上り始めテントを包んでいた闇がだんだんと消えていった。恐る恐る外に顔を出してみると、夕べの出来事などなにもなかったかのように明るい朝が目の中に飛び込んできた。しばらくしてSeijiが起きてきて、夕べのことをこんこんと語ると、「へ〜! 寝てたからぜんぜん知らない!」だって。

 マジか〜? あの恐怖を知らない? 挙げ句の果てには、その話本当か? だって。本当だっちゅうねん! まあ、信じなくてもいいけど! 僕だけが、わかっていればいいことだ。そして、僕たちは、朝ご飯を食べ、テントをたたんで、また今日も川下りの旅に出た。ただ、僕は知っていた。大きな足跡が僕の船のすぐ横にあったことを!

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