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Good Morning Yukon Vol.2 : Five Finger Rapid

 

前回の旅から2年後の2005年8月、写真家・宮澤聡は再びカナダのバンクーバーに降り立った。19日間をかけて壮大なYukon Riverを下るために。

th_cover_yukon_augst.jpg


 うあ〜、どうしよう?
 一番右側を行けばいいんだな!?
 近づくと迫力あるな〜!

 ドデカイ岩の軍団がぼくの目の前に立ちはだかる。体全体が緊張感でいっぱいになってきた。目の前には、Five Finger Rapidsが迫っている。ここが最大の難所である。ここをクリアすれば、後は特別に難しいところはないはずである。そしてぼくは、言われた通りに一番右奥に突っ込んでいった!
いくぞ〜! わあ〜〜!

 その一時間前、ぼくたちはCarmacksを出発した。とうとう出発してしまった! もう後戻りはできね〜ぞ! もうゴールまで行くしかない! そしてSeijiに、今日はまず1時間もしたらFive Finger Rapidsがあるから、とにかく一番右側を行けよ! そこを行けば問題ないよ! と言われた。


th_five_Finger_rapids_with_me.jpg


 そうだ、今日は、最大の難所を通過しなければならない。やべ〜な、なんか緊張するな! ぼくにとっては初めてで、どんな姿をしてるのかも知らないし、どんな難所なのかもわからない。前回そこを通過したSeijiから聞いてはいるけど、どんな姿をしているのかは想像できないし、やはり不安だ。もし失敗したらどうなるのだろう? ぼくの人生はここで終わりになるのか? と想像が膨らんでしまう。
 そんなぼくは割とネガティブなことを考える人間である。そんなこと考えてるとどんどん緊張してくる、というか、プレッシャーが襲ってくる。右に行けば問題ないよ! と言われてもリラックスなんかできなかった。Five Finger Rapidsの姿が現れた時、想像より、ものすごくチンケな物かもしれないし、たいしたことないかもしれないけど、実際にこの目で見るまではプレッシャーとの戦いである。これはいつものことである。心配性と言うか、たぶんビビりな性格だと思う。
こんなビビりでネガティブな人間がいくつもの難関を突破してきたのだから、今は多少の自信もあるが、しかし突破しなければゴールに着けないし、下手をすれば本当に死ぬ。だから必ず突破しなければならない。

 しかし前半戦を振り返ればBig Salmon Riverはかなりタフな出来事が多かったので、後半戦はゆったりと下りたいな〜という気持ちがあったが、実際にはそんなことはありえないわけで、あと少し下れば、最大の難所Five Finger Rapidsがあるわけで。その先にも多少でも何かはあるはずだし、反対に何もなかったらつまらない旅になってしまうし......ただちょっと身体的にも疲れが溜まってきているのも確かだし、Carmacksで少し休んだので気持ちの緊張の糸が少し緩んだのかもしれない。でもここで気持ちをまた引き締めないと、これからすぐに迎える最大の難所に立ち向かうことができない。変な緊張感あるいはプレッシャーみたいなものはあるが、正しい緊張感みたいなものがイマイチ湧いてこない。しかし、そんな心配は無用だった。このあと数分後にFive Finger Rapidsの全貌が明らかになったとき、僕の緊張の糸は、大きな獲物と格闘中の釣り糸のように、少しの余裕もなしにビシッと張ることになるのである。

 Carmacksを出て一時間ぐらいたったころ、目の前に大きなカーブが見えた。そのカーブを out-in-out でやり過ごした途端、目の前の川幅がいきなりドッカーンと広がり、川の奥に何か異様な大きな岩がいくつも生えている。そう! あれが!! この旅最大の難所、Five Finger Rapidsであった。


th_five_finger_rapids.jpg


 あれか? うわ〜! なんか迫力あるな〜!
 川を塞き止めるように大きな岩の島がいくつも並んでいる。実際は、4つの大きな岩島で構成されていて5個の細くなったルートがある。なのでFive Finger Rapidsという。ただ、まともにカヌーやシーカヤックが突破できるのは一番右側のルートのみ。残りの4本は、水流や幅の細さなど、さらに断崖絶壁で何メートルか滝のように落ちているルートもあり、通行するにはかなり危険で、プロ級の人間以外は一番右側を通行することが推奨されている。

 よ〜し! 右だな! 行くぞ〜!
 右ルートに向かって漕ぎ出した。島の手前の流れはあまり早くない。たぶんあの島群で水が塞き止められているような状態で水が溜まっているのだ。そんな水溜りのようなところを漕いで行くのだが、なんか右を意識しすぎるあまりなぜか右に寄らない。あれれ、右に行かないぞ! なんか真ん中の方に寄っている気がする。おいおい! 真ん中は最悪だぞ! あの岩島に当たったらぼくのカヤックなどひとたまりもない。ぼくは、必死だった。
 漕ぐ漕ぐ漕ぐ! うあ〜! 右! 右!
 なんか流れが早くなっているところがぼくの少し右側にある。そしてそれは、水道のようになって右ルートの方に続いている。それに乗っかれば、そのままぼくを右ルートに運んでくれるに違いない。そこに乗るためにガァ〜! と漕いだ。
 乗るんだ! 乗れ! 乗れ! 
 そして乗ることができた。よし! よくやった! 思った通り、何もしなくてもぼくを右ルートに運んでくれる。やったー! これで安心だ。と思っていたがそこまで甘くはなかった。右ルートの岩島と岩島の間に差しかかると急に流れが増した。そして左手の方から別ルートの水流が押し寄せてきて複雑な水流を作っていた。
 お〜、お〜! すげ〜すげ〜! 揺れる揺れる!
そして水流が激しさを増して、まるで地震で揺れているように水がドタンバッタンと激しくカヤックに直撃してきて、ぼくは水を何回か頭からかぶった。

 一番激しい場所をやり過ごすと、ぼくFive Finger Rapidsを突破した。一挙に緊張感から解放されたぼくは、どんな所を突破したのかちゃんと見たくてカヤックを180度回転させて島群を見た。すると、ぼくの後からSeijiが突破してくるのが見えた。
やはりSeijiは経験者だからなのか、余裕で突破してきているように見えた。


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 そしてSeijiと合流して、今日のキャンプ地を目指す。一応地図上ではもうゴールまで難所はない。しかし、後半戦はまだ始まったばっかり。ゴールまでいろいろあるだろうと期待に胸を膨らまし、道のりを楽しもうと心に誓い、かなり広くなった川幅のYukon川に真っ青の空が映り込んでいた。

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