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Nikkei Brasileiros! vol.24

セルソ・カムラ(ヘアメイク・アーティスト)

日伯交流100周年企画
後援=在日ブラジル大使館
協 力=AMERICAN AIRLINE

Photoraphs & Text by Mizuaki Wakahara(D-CORD)
Directed by Ryusuke Shimodate
Edit by Tomoko Komori

Camera Assistant by Yayoi Yamashita
Coordinated by Tamiko Hosokawa (BUMBA) / Erico Marmiroli


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2008 年、地球の裏側ブラジルへの移民がはじまって100年の月日が流れた。今では150万人を超える日系人が暮らしている。 南半球最大都市サンパウロへ「japon」に会いに旅にでた、日系ブラジル人ポートレイト集。

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2008年10月14日

 「侍のハサミ」という見出しが2010年、ブラジル大統領選の直前にエスタード紙を飾る。野党であるブラジル社会民主党(PSDB)の老練政治家、ジョゼ・セーラ氏有利だった世論調査の支持率を、与党でブラジル初の女性大統領を目指すジウマ・ロウセフ氏が巻き返し逆転したときのことだ。かつて「鉄の女」と呼ばれ、こわもての眼鏡姿だったジルマ氏は、ある男の手ほどきで、髪型も顔色も見違えるような「変身ぶり」が話題になり、無党派層や浮動票をつかみ、支持率を一気に伸ばしたのだった。
 そのある男こそ、今回紹介するヘアメイク・アーティスト、セルソ・カムラである。セルソは、その勢いのまま大統領選を圧勝したジウマ大統領のために、現在も毎月、首都ブラジリアに通い続けている。
 今でこそ、大統領のお抱えヘアメイクとして広く認知されているが、そうなる前から彼は有名だった。僕が今回の旅の中で逢った人々に、「誰か面白くてフォトジェニックな日系人がいたら教えてください」と聞くと、みんな口をそろえて「それならセルソがいいんじゃない?」とリクエストしてくれた。みんなが進めるもんだから、タミコさんにお願いしてすぐに撮影依頼をしたが、あーだこーだ言われてなかなかイエスと言わない。タミコさんも「なんかお高いヤツだな!(怒)」とキレ気味だった。昨日会ったジュリアナ(連載Vol.19)が友達だというので電話を入れてもらい、渋られながらもやっと了解を得ることができ、この撮影が実現した。ジャルジーン・パウリスタ区(超高級ブランドが立ち並ぶサンパウロで最もバブリーなエリア)に構えるサロン『C・Kamura』を訪れた。


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 セルソは日系3世。祖父母は横浜からブラジルへ移住してきたそうだ。5人兄姉の末っ子。1歳の時に父を亡くし、母の出身地リンスで主に祖母に育てられる。母はサンパウロのリベルダーヂの日本食レストランに出稼ぎに行っていたため、1年に1度くらいしか会うことができなかった。祖母や伯母は厳格で非常に教育熱心だったため、セルソは小中学校をトップの成績で卒業している。日本語や日本文化を強要されなかったのは「たぶん大戦の時、日本語が禁止されたからだと思う」と振り返る。それでも兄姉のうち2人は日本語を話すという。14~5歳の時、学校に通いながら会計事務所で働く。この頃すでに美容に関心を持ち、姉2人にメイクを施していた。そんなセルソを見た友人の美容師に誘われ、テストを受けたときに『これこそが私の世界』と開眼し、以後独学で技術を磨き、間もなく美容師としても頭角を現す。そしてなんと17歳で独立し、自分のサロンを開いている。


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 セルソはゲイであるが、アンドレ(連載Vol.22)同様、当時の極端に保守的な日系社会の中では、相当な偏見の眼で見られたに違いない。それでも「むしろゲイだからこそ、ノンケには感じられないことに気がつけたし、特別な美意識が備わっているし、なんとか社会に認められようと、人一倍頑張ろうと思うこともできた」と語る。見た目からは想像がつかないほどの努力家である側面を垣間みることができた。

 ゲイであることは素直に受け入れることができたセルソは、むしろ日系であることについては様々な葛藤があったようだ。「育った環境が日系社会とほとんど接点がなかったし、完全に西洋文化の中にいたの。だから日本食も日本文化も全く興味がなかった。でも容姿はこんなにオリエンタルじゃない? だから自分にとって日本って何なんだろうってずっと思ってた。どちらかと言うと疎ましい感情だったと思う。」しかし、彼の人生とキャリアに大きな影響を与えたのは紛れもなく日本だったようだ。「私はブラジル社会では珍しいくらい勤勉で忍耐力があり、努力を惜しまない人間だと自負していて、それを特別な才能だと思っていた。ところが1992年に仕事で初めて日本に行った時に、日本人の国民性、その知的で教養があるところに感銘を受けたし、自分のルーツを理解することができたの。そしてそのホスピタリティはある意味衝撃だった。これはブラジル人にはなかなか難しいけど、「私にはできる!」と。サービス業であるサロンの仕事を続けるうえで大いに活用できた。間違いなく成功を納めることができた要因だわ!」。以後、彼のアイデンティティに関する不安は解消され、キャリアにとっても分岐点となっている。「東洋は本当に神秘的だったし、『真心』は極めて美しい!」と感慨深げに語った。


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 以来、セルソは積極的に日本の文化にアクセスするようになる。「髪を結う時は芸者の姿が浮かぶし、アバンギャルドな髪型を模索する時は漫画の人物が浮かぶ。日本文化はいつだって私の仕事のエッセンスになっているのよ」。

 セルソは近年も度々来日しているようだ。まさか『みのもんたの朝ズバッ!』にも出演していたとは! これには僕も驚いた。トレードマークの長髪をなびかせて、あの、やや気持ち悪い薄ら笑いをカメラの前で披露したに違いない。昨年はサンパウロ州軍警察の女性警察官250人を対象に、美容講座を開催したらしい。それに対する「2時間という限られた時間の中で、受講者に女性警察官としてできるだけ美しく振舞う方法を教えてもらえた!」というアレサンドロ巡査部長の総評も含めて、ブラジリアンドリームに思いを馳せる。こんな朗らかな記事を目にする度に、僕はまた一段とブラジルを愛してしまう。

 ちなみにセルソ・カムラの祖父の名前はナカムラだったそうだ。カムラだろうがナカムラだろうが誰も気にする人はいないだろうが。


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vol.1 ジュン・マツイ(タトゥーアーティスト/俳優)
vol.2 チアキ・イシイ(柔道家)
vol.3 シズオ・マツオカ(バイオエタノール研究者)
vol.4 トシヒコ・エガシラ(ざっくりと実業家
vol.12 KIMI NI(陶芸家)
vol.13 トミエ オオタケ(芸術家)
vol.14 ヒデノリ サカオ (ミュージシャン)
vol.15 ヒデコ スズキ(デコギャラリー/ギャラリスト)
vol.16 ナミ・ワカバヤシ(ジュエリー・デザイナー)
vol.17 シンチア・タカハシ(女子ソフトボールブラジル代表選手 & エンジェル)
vol.18 ティティ・フリーク (グラフィティ&ヨーヨー・アーティスト)
vol.19 ジュリアナ・イマイ(モデル)
vol.20 マルシア(歌手・女優)
vol.21 レイチェル・ホシノ(プロダクト・デザイナー)
vol.22 アンドレ・アルマダ(ゲイクラブ・オーナー)
vol.23 アヤオ・オカモト(アーティスト)






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