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Nikkei Brasileiros! vol.3

シズオ・マツオカ(バイオエタノール研究者)

 日伯交流100周年企画
後援=在日ブラジル大使館
協力=AMERICAN AIRLINE

Photoraphs & Text by Mizuaki Wakahara(D-CORD)
Directed by Ryusuke Shimodate
Edit by Tomoko Komori

Camera Assistant by Yayoi Yamashita
Coordinated by Tamiko Hosokawa (BUMBA) / Erico Marmiroli


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2008 年、地球の裏側ブラジルへの移民がはじまって100年の月日が流れた。今では150万人を超える日系人が暮らしている。 南半球最大都市サンパウロへ「japon」に会いに旅にでた、日系ブラジル人ポートレイト集。

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2008年10月6日

 朝起きたら雨が降っていた。昨晩はジュンさん(※1)の弟アキラのナビゲーションでサンパウロのナイトクラブをハシゴして遊びまわったので、今朝はスタッフみんなカラダが重い。「それにしても楽しかったなぁ、サンパウロの夜は......」と余韻に浸りつつ、今日の撮影現場へ行くためにハイヤーしたタクシーに乗るやいなや、寝てしまった......。
 目を覚ますと畑を背景に無機質な工場が立ち並ぶサンパウロ郊外の風景。時計は1時間半ほど進み、相変わらず雨は降っている。


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  今日会いに行くのはバイオエタノール研究者のシズオ・マツオカさんだ。
マツオカさんは次世代エネルギーとして今最も注目を集めているバイオエタノールのさらなる進化のために、その原料となるサトウキビの改良から、その汁を発酵させてエチルアルコールを取り出す全過程を管理する責任者であり、時代に先駆けバイオ燃料関連の製造マニュアル書籍を多数手がけている。
 そもそもブラジルはサトウキビ生産量が世界でダントツの首位。そして政府主導で自動車燃料などのアルコールへの転換を進めたのが'80年代初頭。'02年12月に〈バイオマス・ニッポン総合戦略(※2)〉を閣議決定した日本より圧倒的に進んでいる。
 〈ECO〉が方々で叫ばれるようになり、テレビやニュースで新たな燃料の必要性が重要視されはじめている。近未来のビジネスとして期待されているバイオエタノールに興味を持ったことがマツオカさんを選んだ理由である。


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 研究所を併設しているオフィスへ着くと、やわらかい笑顔でマツオカさんが迎えてくれた。とても穏やかな人物だ。挨拶を終え、早速研究所を見せていただいた。入るまでに何度も消毒作業があり、会社のロゴ入り白衣にも袖を通した。ガラスに写る白衣を着てカメラを持つ自分の姿が愛らしい。懐かしの理科室のような部屋から温室ハウスの畑まで研究所を一回りした。思いのほか日系人を見ることがなく、終始ブラジル人に囲まれるマツオカさんの姿は常に目立って見えた。周りの研究者たちからもリスペクトされている様子がすぐにわかる。


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 ご両親がともに幼少時代にブラジルへ移住し、マツオカさんは2世にあたる。生い立ちを聞いていて驚いたのが、中学校へ上がるという早いタイミングで日系社会を出たことだった。実のお兄さんとお姉さんは今でも日系社会の中で日本人として暮しているというのでさらに驚く。両親や親戚から教わった日本語も早々に忘れてしまったらしい。なぜか? と聞くと、「それが自然だった」と答えた。当時('50年代以降)、ブラジルの日系社会は世代交代と呼ばれる時期だったそうで、ブラジル生まれでブラジル人としてのアイデンティティを持った〈2世〉や〈3世〉が成人し、多くがブラジル社会の中枢へ入っていくという過渡期であった。「まったく(日本人としての血筋の)影響がないとも思わないが、自分を日本人だと思ったことは一度もない」とさらりと言う。常にブラジル人として生き、日本に対するノスタルジーな感覚もないそうだ。


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 '80年に一度だけ日本へ行ったことがあるそうだ。岐阜県の親戚を訪れたが、その時さえ、「祖父母の写真で見たことがある風景だとは思ったが、懐かしさを感じるというよりは異国情緒を感じたし、それよりも泥棒がいないことにびっくりしました! ブラジルでは、畑を見張る人がいなければ、みんな作物を持っていっちゃいますよ!」と笑う。
 マツオカさんにとって、両親の母国〈日本〉は地球の裏側の遠い遠い知らない場所なんだ。
 どうしてもマツオカさんと日本を結びたい。「そうは言ってもここだけは日本ぽいってところがひとつくらいありますよね?」とねばる。
 「顔はよく日本人ぽいって言われますね......」。......間違いない。


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  「〈違い〉をどんどん統合していく国なので、日系1世が持ち込んだ文化もどんどん失われていくでしょう。以前にも増して日系社会を越えて結婚したり仕事をしたりする人が増えているので、より融合は加速しています。でもそれが自然な流れです。何も未練はないですよ」。

 聞いても聞いても日本に無関心なマツオカさんはブラジル人以外の何者でもない。きっと家には招き猫すら置いていないだろう。むしろホォベルト・カルロス! Isso! とかって呼びたいくらいだ。

 ただ......顔が......。


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 いろいろ写真を撮らせていただいたけど、デスクに飾ってある家族の写真がマツオカさんのすべてを物語っている。そしてブラジル人とのお嫁さんとの間に生まれた息子と娘は、マツオカさんに似ていない。

 マツオカさん、快く取材に応じてくださってありがとう。感謝しています。


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 今日は16時から、楽しみにしているサブリナの取材があるので、ハイヤーのタクシーでサンパウロ市内へとんぼ帰り。サンパウロの心臓部に位置するタワービルのスタジオへ向かった。車中では再び爆睡。目覚めると雨はあがっていた。エントランスのセキューリティーで入館手続きを済ませ、いざ売れっ娘グラビアアイドルのもとへ。
 スタジオの入り口ではB級バラエティーの収録中。お馬鹿ぶりがとても良い。
 そして見知らぬセクシータレントのおしりはもっと良い!!!



(※1)連載Vol.1でお会いしたタトゥー・アーティスト、ジュン・マツイさん。
(※2)循環型社会を目指すための長期戦略で、畜産や食品の廃棄物、木材やワラ、資源作物などの有機物(バイオマス)からエネルギーやバイオプラスチックを生産することで、温室効果ガスの排出削減、代替エネルギー生産、新産業分野の開発、農村地域の振興を目指す。



■過去連載記事:
vol.1 ジュン・マツイ(タトゥーアーティスト/俳優)

vol.2 チアキ・イシイ(柔道家)





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